相続欠格は、聞き慣れない言葉ですが、誰が財産を受け継ぐかの前提を変えることがある決まりです。遺言書がある場合でも、相続人の立場そのものに関わるため、先に意味を整理しておくと全体像をつかみやすくなります。ここでは、相続欠格とは何か、民法891条の事由、相続への影響、確認の進め方を順に見ていきます。
相続欠格とは、法律上当然に相続権を失うこと
相続欠格とは、亡くなった方(被相続人)やほかの相続人に対して、法律が重い不正行為とみる事情があると、その人は相続人になれないという決まりです。根拠は民法891条です。
ここで押さえたいのは、本人が自分の意思で相続から外れる制度ではない点です。相続放棄のように申述をして外れるのではなく、民法891条の事由に当てはまれば、法律上当然に相続権を失うと考えられます。
そのため、遺言書に名前があるかどうかだけでは判断できません。相続欠格に当たるかで、誰を相続人として扱うか、遺産分割の話し合いに入る人は誰か、相続分をどう考えるかが変わるためです。不動産の名義変更や預貯金の手続きでも、まず相続人の範囲を固める場面が出てきます。
反対に、家族仲が悪かった、長く交流がなかった、介護をしなかったという事情だけでは、相続欠格にはなりません。感情的な対立と、法律上の欠格事由は分けて見る必要があります。
民法891条で定められた相続欠格の事由
民法891条は、相続欠格になる事由を限って定めています。どんな不満があっても、次の事由に当てはまらなければ相続欠格にはなりません。
| 事由 | わかりやすい内容 | 確認したい点 |
|---|---|---|
| 亡くなった方や先順位・同順位の相続人を故意に死亡させ、または死亡させようとして刑に処せられた | 相続に関わる人を故意に殺害した、または殺害しようとして有罪になった場合です。 | 事故や過失ではなく、故意であることと、刑に処せられていることが前提になります。 |
| 亡くなった方が殺害された事実を知りながら告訴・告発しなかった | 殺害を知っていたのに、届け出なかった場合です。 | ただし、善悪の判断ができない状態だったときや、殺害した人が自分の配偶者、親や子などの直系の親族だったときは除かれます。 |
| 詐欺や強迫で、亡くなった方が遺言をする・撤回する・取り消す・変更することを妨げた | 遺言を書こう、直そう、やめようという本人の判断を、不正な方法で邪魔した場合です。 | 単なる意見の対立ではなく、だましたり脅したりして自由な判断を妨げたかが問題になります。 |
| 詐欺や強迫で、亡くなった方に遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、または変更させた | 本人の意思をゆがめて、望まない内容の遺言を作らせたり、書き換えさせたりした場合です。 | 本人が自分で決めたのか、不正な働きかけで動かされたのかを資料から見ていくことになります。 |
| 遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した | 遺言書を勝手に作る、書き換える、捨てる、隠す行為です。 | 原本の有無、保管状況、見つかった経緯などが後の確認材料になります。 |
遺言書に関わる行為は誤解が起こりやすいところです。たとえば、遺言内容に不満を述べたこと自体で欠格になるわけではありません。問題になるのは、だます、脅す、隠す、壊すといった、民法891条に書かれた行為です。
手元で保管されていた遺言書が見つかり、隠されていたのではないかと疑問があるときは、見つかった経緯と保管状況を落ち着いて確かめましょう。開封前にすることは遺言書が見つかったら、開ける前にすることにまとめています。自筆の遺言書がある場面では、遺言書の検認手続き、流れと注意点も確認しておくと、その後の扱いをイメージできます。
相続欠格になると、相続人の範囲や話し合いの前提が変わる
相続欠格になった人は、相続人として財産を受け継げません。遺産分割の話し合いでも、その人を相続人として数えない前提で進めることになります。相続人であることを土台とする権利関係も、まずこの整理から考えることになります。相続人の順番の基本は誰が相続人か、範囲の決まり方で確認できます。
影響が大きいのは、人数が変わるだけではないことです。誰が相続人になるかが入れ替わると、法定相続分の考え方や、相続税の基礎控除を確認するときの人数も変わります。さらに、不動産の名義変更や預貯金の払戻しで用意する戸籍の集め方にも関わってきます。
また、欠格になった人に子がいると、その子が代わって相続人になります(代襲相続。民法887条2項)。相続放棄では子が代わりになることはないので、ここは放棄との大きな違いです。家族構成によって整理の仕方が変わるため、続柄を紙に書き出して確認するのが近道です。相続まるごと診断なら、家族構成を入れるだけで相続人と法定相続分、基礎控除、期限をまとめて確認できます。
遺留分を考える場面でも、前提となるのは「誰が相続人か」です。相続欠格が問題になるときは、先に相続人の範囲を固めてから、遺言書の内容や取り分の話に進んだほうが、論点が混ざりにくくなります。
相続放棄や遺言の内容への不満とは別の問題です
相続欠格は、相続放棄と同じではありません。相続放棄は、借金を含めて受け継がないために自分で行う手続きです。一方の相続欠格は、民法891条に当たる行為があったかどうかが出発点になります。借金がある相続で放棄を考えるときは、親の死後、借金の調べ方と放棄の考え方を別に確認しておくと整理しやすいでしょう。
また、遺言書の内容に納得できないことと、相続欠格に当たることも違います。特定の人に多く残す内容だった、期待していた配分と違ったというだけでは、相続欠格にはつながりません。争点になるのは、遺言を自由な意思で作れたか、遺言書が改ざんや隠匿の対象になっていないかといった点です。
そのため、家族間の話し合いで「ひどいことをしたから相続させたくない」と感じても、すぐに相続欠格と決めつけることはできません。条文にある事由に沿って、どの行為があったのか、資料で裏づけられるのかを分けて考える必要があります。
虐待や重大な侮辱、著しい非行を理由に相続させたくない、という場面のための制度は、相続欠格ではなく相続人の廃除です。亡くなった方が生前に家庭裁判所へ請求するか、遺言に書いておいて遺言執行者が請求します(民法892条)。欠格と違って自動ではなく、家庭裁判所が認めて初めて相続権を失います。
疑いがあるときは、前提を整えてから遺産分割に進む
相続欠格が疑われるときは、感情の整理と法律上の整理を分けて進めると見通しが立ちます。進め方の例は次のとおりです。
- まず、亡くなった方との続柄と家族構成を並べ、誰が相続人候補なのかを確認します。戸籍を集め始める前に一覧にしておくと、後の抜け漏れを見つけやすくなります。
- 次に、相続欠格の事由に関係しそうな資料を分けます。刑事事件の記録、遺言書の原本、封筒や保管場所の状況、やり取りの記録など、事実関係が分かるものを時系列で整理しておくと、話し合いが感情論に寄りにくくなります。
- 前提が固まらないうちは、急いで遺産分割の内容を決めないほうが無難です。誰を相続人として扱うかが変われば、協議書の作り直しにつながることがあるためです。整理が進んだ後は、遺産分割協議書に書くことで記載漏れがないか確認できます。
- 家族の間で事実認識が分かれているときは、早い段階で相談窓口の利用も考えます。相続欠格は、制度の名前だけで判断せず、資料に基づいて前提をそろえることが欠かせません。
相続欠格は、民法891条に当てはまる限られた場面で生じる制度です。まずは事由の有無を丁寧に確かめ、誰が相続人になるのかを整理したうえで、遺言書や遺産分割の検討に進んでください。
