亡くなった方に借金があると、「借金だけは引き継がず、預金や家は受け取りたい」と感じることがあります。ただ、相続は財産ごとに都合よく選ぶ仕組みではありません。相続放棄でできること、できないこと、3か月の期限の見方を順に整理します。
借金だけ相続しない、という選び方はできない
民法では、相続について「そのまま受け継ぐ」「受け継ぐ範囲を相続財産の中までにとどめる」「受け継がない」の三つから選ぶ形です(民法915条1項。受け継ぐ範囲を相続財産の中までにとどめる限定承認は922条)。このため、借金だけ外して、預金や不動産だけを受け取るという切り分け方は前提になっていません。限定承認の仕組みと相続放棄との違いは限定承認とは何か、相続放棄との違いで整理しています。
相続放棄は、亡くなった方の相続全体を受け継がない手続きです。家庭裁判所への申述の流れと必要書類は相続放棄の手続きと必要書類にまとめています。反対に、家や預金を相続で受け取るなら、借入れや未払金などの負担もあわせて考える必要があります。家族のあいだで「借金は引き受けないことにしよう」と決めても、それだけで相続放棄をしたことにはなりません。
まず大事なのは、借金が本当にあるのか、どの種類の負担なのかを分けて見ることです。思い込みで放棄を急ぐと、後から見つかった預金や保険、返ってくるお金まで受け取れなくなる可能性があります。
判断の前に、借金と財産の両方を調べる
確認したい借金は、銀行や消費者金融からの借入れだけではありません。クレジットカードの利用残高、カードの分割払い、家賃や施設費の未払い、事業で使っていた契約、保証人になっていないかという点も見ます。督促状がなくても、通帳の引き落とし履歴やスマートフォンの請求履歴から気づくことがあります。郵便物・通帳・信用情報からの具体的な調べ方は親の死後、借金の調べ方と放棄の考え方で整理しています。
一方で、残る財産も同時に確認します。預金、不動産、株式、自動車、保険金、未収入金など、受け取れるものがあるかで判断材料が変わるからです。通帳、固定資産税の書類、保険証券、証券会社からの郵便物、勤務先からの連絡などを一か所に集めると全体像をつかみやすくなります。
借金だけが目に入りやすい場面でも、全体を一覧にしてみると見え方が変わることがあります。相続放棄を考える前に、まず「負債の一覧」と「財産の一覧」を別々に作り、見つかった日付と保管場所を書き添えておくと、その後の話し合いが進めやすくなります。
亡くなった方が自営業だった、親族の会社を手伝っていた、誰かの借入れの保証に入っていたという事情があると、通帳や督促状だけでは分からないことがあります。机の中の契約書、確定申告の控え、会社名義の郵便物、金融機関からの案内も見落とさないようにします。
相続放棄をすると、財産も受け取らない
預金や不動産も相続では受け取れない
相続放棄をすると、その人は初めから相続人でなかったものとして扱われます。したがって、借金を負わない代わりに、預金、不動産、株式、自動車なども相続で受け取れません。亡くなった方の持ち物を整理するときは、思い出の品と価値のある物を分けて考え、判断が固まるまでは処分や名義変更を急がないほうが安心です。
たとえば、口座からお金を動かす、家を売る、貴金属を持ち帰るといった行為は、後で経緯の説明が必要になることがあります。財産を処分すると放棄できなくなる決まりについては、相続放棄できなくなる単純承認とはで確かめられます。放棄を視野に入れているなら、何のために何をしたかをメモに残し、領収書や通帳の写しも保管しておきます。
放棄すると次の相続人に順番が移ることがある
一人が放棄すると、その人の分が空白になるだけではなく、次に相続人になる人へ順番が移ることがあります。子が全員放棄した結果、亡くなった方の父母や祖父母、その次は兄弟姉妹が手続きの当事者になることもあります。自分の判断がほかの家族に影響するため、誰に順番が移るのかを先に確かめておく意味があります。
家族構成ごとの動きは相続放棄したら次は誰が相続人かで確認できます。この記事の途中にある相続放棄シミュレーターでも、3か月の期限の日付と、放棄した後に誰へ移るかを並べて見られます。
相続放棄の期限は3か月、起点の確認が欠かせない
相続放棄をするか考える期間は3か月です(民法915条1項)。原則として、自分が相続人になったことを知ったときから数えます。亡くなった日がそのまま起点になる場合もありますが、先順位の相続人が放棄して自分に順番が回ってきたときは、その時点から考えることになります。
期限の考え方を詳しく読みたいときは、相続放棄の期限3か月はいつから数えるかが参考になります。亡くなった日からほかの手続きの期限も並べたいときは、相続の期限チェックに入れると、相続に関係する日付をまとめて確かめられます。
3か月は長いようで、戸籍の取り寄せや資料集めを始めると余裕がないことがあります。郵便物の確認、金融機関への照会、親族への聞き取りが重なるため、後回しにすると判断材料がそろわないまま期限が近づきます。すでに3か月を過ぎているなら、まず相続放棄で3か月を過ぎたときの確認点で事情の整理に必要な項目を見ておくと、現状を把握しやすくなります。
期限内に結論を出すには、「あとでまとめて調べる」より、見つかった資料から先に一覧化するほうが現実的です。相続人ごとに連絡先を決め、誰が戸籍を集めるか、誰が郵便物を確認するかを分けておくと、同じ調査を何度もせずに済みます。
迷うときは、資料を残しながら順番に進める
判断を急ぎにくいときは、次の順で動くと整理しやすくなります。
- 亡くなった日、相続人になったと知った日、書類が見つかった日をメモする
- 借金に関する書類と、預金や不動産に関する書類を分けて保管する
- ほかの相続人にも、見つかった資料と期限の考え方を共有する
- 放棄を考えている間は、財産の処分や名義変更を急がない
とくに同居していた場合は、公共料金の支払い、口座の扱い、家の管理など、生活上の対応と相続の判断が重なります。必要な支払いをしたときは、金額、日付、理由を残しておくと、後で経緯を説明しやすくなります。反対に、記録がないままお金を動かすと、家族間でも認識がずれやすくなります。
また、放棄する人が出ると、残る家族の手続きも変わります。預貯金の解約や不動産の名義変更を先に進めたい気持ちがあっても、相続人の範囲が固まる前に動くとやり直しになることがあります。放棄の有無と順番を確認してから次の手続きへ進むほうが、後の負担を抑えやすくなります。
相続放棄は、「借金だけ相続しない」ための部分的な手続きではなく、相続全体を受け継がない選択です。迷うときは、3か月の起点と集まっている資料を整理したうえで、相談窓口をご案内しています。
