相続時精算課税は、生前に渡した財産を、亡くなったときの相続とつなげて考える方式で、届出をして選びます(相続税法21条の9)。2024年1月1日以後の贈与からは、この制度にも年110万円の基礎控除が設けられました。以前に読んだ説明では「相続時精算課税を選ぶと、少額の贈与でもあとで全部まとめて扱う」と書かれていることがありますが、いまはその理解だけでは足りません。ここでは改正で変わった点、暦年課税の110万円との違い、選ぶ前に家族で見ておきたいところを順に整理します。
2024年の改正で変わったこと
いちばん大きな変更は、相続時精算課税でも毎年110万円の基礎控除が使えるようになったことです。国税庁の案内でも、2024年1月1日以後の贈与から、この110万円の範囲の贈与は贈与税の対象から外れ、亡くなった方の相続財産にも加算されないと示されています(相続税法21条の11の2)。
改正前との違いを短くまとめると、次の3点です。
- 毎年110万円までの贈与を、その年ごとに区切って考えられるようになった
- 110万円までの部分は、将来の相続で持ち戻して計算しない
- 110万円を超えた部分は、相続時精算課税の枠の中で整理する考え方が続く
そのため、相続時精算課税を選んだあとも、毎年の贈与記録が前より重要になりました。以前は「全部まとめて相続で見る」と理解していても、大きくは外れませんでしたが、改正後は110万円までの部分と、それを超える部分で扱いが分かれます。どの年の贈与なのか、いくら渡したのか、相手は誰かを年ごとに見分けられないと、あとで家族が整理しにくくなります。
110万円でも、暦年課税とは意味が違います
生前贈与でよく出てくる110万円は、どの制度でも同じ働きをするわけではありません。数字が同じでも、相続とのつながり方が異なります。
| 見る点 | 相続時精算課税 | 暦年課税 |
|---|---|---|
| 110万円の位置づけ | 2024年以後の贈与に使える年ごとの基礎控除 | 毎年の贈与税の基礎控除 |
| 亡くなったときの扱い | 110万円までの部分は相続財産に加算しない | 相続との関係は別のルールで見る |
| 制度の始まり方 | 選んで使う | 通常はこちらで考えることが多い |
| 110万円を超えた年 | 超えた部分を相続時精算課税の考え方で管理する | その年の贈与として考える |
この違いが問題になるのは、税金の計算だけではありません。きょうだいの一人だけが贈与を受けていた場合、相続が始まってから「これはどの制度で渡したお金なのか」が分からないと、説明に時間がかかります。数字だけで判断せず、制度名まで家族でそろえておくことが必要です。暦年課税の基本は生前贈与110万円と暦年課税の基本で整理できます。あわせて見直しが入りやすい持ち戻しの考え方は、生前贈与の7年加算、改正で何が変わるかを読むと区別しやすくなります。
110万円と2,500万円は別に考えます
相続時精算課税は、もともと累計2,500万円の特別控除がある制度として知られてきました。今回の改正で加わった110万円は、この2,500万円と同じものではありません。毎年の110万円は年ごとの基礎控除で、まずここを差し引いて考えます。
たとえば、その年の贈与が110万円までなら、その部分は相続財産に加算しません(相続税法21条の11の2)。一方で、110万円を超える年があると、超えた部分は相続時精算課税の枠の中で見ていくことになります。ここを「毎年2,500万円まで大丈夫になった」と受け取るのは誤りです。年110万円の基礎控除ができたことで少額の贈与は扱いやすくなりましたが、制度全体が別物になったわけではありません。
また、同じ相手に毎年贈与を続ける場合は、年ごとの区切りが特に大事です。2024年より前の贈与、2024年以後の贈与、110万円までの年、110万円を超えた年を分けて残しておくと、後から見返したときに迷いにくくなります。通帳の動きだけで判断できるとは限らないため、贈与の日付、金額、誰から誰へ渡したかを一覧にしておくと役立ちます。
選ぶ前に見ておきたい確認事項
毎年の贈与額が安定しているか
改正後の相続時精算課税は、毎年110万円までの贈与を続けたいときに理解しやすい面があります。ただし、ある年は少額で、別の年はまとまった贈与を考えているなら、110万円を超える年の扱いまで見ておく必要があります。家計の補助のように毎年似た額で渡すのか、財産の移転をまとめて進めたいのかで、整理のしやすさが変わるためです。結婚や子育ての費用に限ってまとめて渡すなら、結婚や子育て資金の贈与と非課税の基本の制度と比べる方法もあります。
家族があとから説明できる形か
相続が始まると、贈与した本人から事情を聞けないことがあります。そのため、「そのとき家族はどう認識していたか」より、「記録として何が残っているか」が重くなります。相続時精算課税の改正で110万円まで相続財産に加算しないとしても、その年の贈与だったことが確かめられなければ、整理に手間がかかります。贈与のメモ、振込の履歴、家族で共有している一覧など、見れば分かる状態にしておくと話し合いが進めやすくなります。
相続税の基礎控除も並べて見る
制度選びだけに目が向きやすいのですが、そもそも相続税がかかる可能性があるのかを先に見たほうが、全体像をつかみやすいことがあります。財産の合計が基礎控除額を超えるかどうかは、贈与の考え方と切り離せません。まず土台を確認したいときは、相続税がかかるかは基礎控除で確認が役立ちます。親に何を聞いておくか迷う段階なら、記事の途中に表示される相続の備えチェックで、預貯金、不動産、遺言書などの確認項目を並べて見る方法もあります。
迷ったときは、この順で整理します
相続時精算課税の110万円改正は、数字だけ見て結論を出すより、順番を決めて確認したほうが全体をつかみやすくなります。
- 2024年1月1日以後の贈与かを分ける
今回の改正で加わった110万円は、2024年1月1日以後の贈与から使います。以前の贈与と同じ表に入れると、どこから扱いが変わるのかが見えにくくなります。
- 制度名まで記録に残す
同じ110万円でも、相続時精算課税なのか、暦年課税なのかで後の見方が変わります。金額だけでなく、どの制度で考えた贈与かを家族で共有しておくと、あとで説明が食い違いにくくなります。
- 110万円までの年と、超えた年を分けて見る
年ごとの基礎控除ができたことで、相続時精算課税は毎年同じ扱いではなくなりました。年単位で線を引いておくと、どこが相続財産に加算されない部分なのか整理しやすくなります。
- 贈与だけでなく相続全体の準備も確かめる
遺言書の有無、相続人になりそうな人、不動産や口座の把握など、周辺の準備も一緒に見ておくと、制度選びが家族の中で浮きにくくなります。
記事を読んでも迷いが残るときは、事実関係を家族でそろえたうえで、相談窓口をご案内しています。
