生前贈与でよく聞く「110万円」は、暦年課税で使う基礎控除のことです。毎年この範囲で渡せばすべて終わり、と受け取られがちですが、実際には誰が受け取ったのか、記録が残っているか、相続のときに加算される期間に入るかまで見ておく必要があります。ここでは、110万円と暦年課税の関係を、相続の場面まで含めて整理します。
暦年課税の110万円は1年ごとの基礎控除です
暦年課税は、その年の1月1日から12月31日までに贈与を受けた財産を1年単位で考える方法です。このとき、贈与を受けた人ごとに基礎控除110万円があり(租税特別措置法70条の2の4)、その年に受け取った合計が110万円以下なら、通常はこの基礎控除の範囲で考えます。反対に、祖父母や親など複数の人から受け取っていても、受け取った側では年ごとの合計で確認することが必要です。
そのため、「1人から110万円まで」ではなく、「受け取った人がその年にいくら受けたか」で見直すと整理しやすくなります。現金だけでなく、預貯金の振込や名義変更した財産など、受け取ったものを年ごとに並べて確認すると、後から話が混ざりにくくなります。
110万円以下でも記録は残しておきます
110万円以下なら何も残さなくてよい、というわけではありません。相続の後に相続人が過去の動きを確かめる場面では、いつ、誰から、誰に、どの財産が移ったのかが分かる資料が役立ちます。振込の記録、贈与の内容を書いた簡単な書面、受け取った人が通帳や印鑑、口座の管理状況を把握していたことなどは、確認材料になります。
また、最初から数年分をまとめて約束し、毎年同じ額を機械的に渡しているだけだと、その年ごとの贈与だったのかを説明しにくい場合があります。毎年の時点で内容を確認し、受け取った人が自分の財産として管理している形を整えておく見方が大事です。
110万円以下でも相続の計算に関係することがあります
暦年課税で贈与税がかからなかったとしても、相続のときに無関係とは限りません。相続または遺贈で財産を受け取った人が、亡くなった方(被相続人)から生前に受けた贈与については、一定期間分を相続財産に加算して相続税を考える仕組みがあります(相続税法19条1項)。このため、110万円以下だった贈与でも、相続税の計算では確認が必要になることがあります。
この加算の対象期間は、2024年1月1日以後の贈与から段階的に3年から7年へ延長されました。さらに、延長された4年分については、その合計100万円までは加算しない扱いがあります(相続税法19条1項)。改正の全体像は、生前贈与の7年加算、改正で何が変わるかで流れを確認できます。
「7年加算になったから全員一律で7年分」とは限りません
気をつけたいのは、2024年からすぐにすべての贈与が一律で7年分加算される、と単純に考えないことです。実際には、2024年1月1日以後の贈与から段階的に延長されるため、贈与した時期によって見方が変わります。しかも、加算の話は相続または遺贈で財産を受け取った人に関係するため、誰が最終的に相続人になるのか、遺言で受け取る人がいるのかでも確認点が変わります。
つまり、「110万円以内だから相続では見なくてよい」とは言えません。亡くなった方からの贈与で、かつ相続で財産を受け取る人に当たるかどうかを分けて考えることが必要です。
毎年の贈与で確認したいポイント
| 確認したい点 | 見ておく内容 |
|---|---|
| 年ごとの合計 | 受け取った人が、その年に受けた財産をまとめて確認する |
| 記録の残し方 | 日付、贈与した人、受け取った人、財産の内容が分かるようにする |
| 管理の実態 | 受け取った後は、その人自身が通帳や口座を把握しているかを見る |
| 相続との関係 | 亡くなった方からの贈与で、加算の対象期間に入るかを切り分ける |
特に迷いやすいのは、家族の口座を親がまとめて管理している場合です。受け取った人の口座に入っていても、実際には渡した側が動かしていたように見えると、贈与の事実関係を確認しにくくなります。お金の移動だけで判断せず、管理の実態まで合わせて見直すと、相続の後で説明しやすくなります。
また、毎年110万円ちょうどにそろえること自体が目的になると、本来の生活費や教育費の支援、家族間の公平、将来の相続分との関係が置き去りになりがちです。贈与は税金だけでなく、あとで遺産分割の話し合いにどう影響するかまで視野に入れて考えるほうが無理がありません。相続のときに現金を残すことが目的なら、贈与ではなく生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人の数)で備える考え方もあります。子や孫の結婚や出産にまとまった額を渡したいなら、使い道を限って非課税になる結婚や子育て資金の贈与と非課税の基本も比べておきます。
生前贈与を考えるときの進め方
まず、相続税の申告が関係しそうかを先に確かめます。判断の入り口としては、相続税がかかるかは基礎控除で確認で、法定相続人の人数ごとの基礎控除額を見ておくと全体像をつかみやすくなります。相続人の範囲や基礎控除額、主な期限を一度に見たいときは、相続まるごと診断で整理できます。
次に、過去の贈与があるなら、受け取った人ごとに年別の一覧を作ります。そこから、亡くなった方からの贈与か、相続で財産を受け取る人か、2024年以後の贈与が含まれるかを順に確認すると、加算の検討が必要な範囲を絞れます。反対に、これから贈与を考える場合は、110万円だけで決めず、渡す目的、記録の残し方、将来の相続への影響を並べてから進めるほうが落ち着いて判断できます。
財産の種類が多い場合や、誰にどこまで渡していたかが家族内で一致しない場合は、一般論だけでは決めにくいことがあります。そのようなときは、相談窓口を利用して、確認すべき資料や整理の順番を確かめる方法があります。
