亡くなった方の家が空き家になっていると、「相続放棄をすれば、もう見に行かなくてよいのか」と迷いやすいものです。結論からいうと、放棄しただけで直ちに一切の関わりがなくなるとは限りません。特に、その家を実際に管理していた人は、次に引き継ぐ人が決まるまで最低限の対応が残ることがあります。ここでは、空き家と相続放棄の関係を、民法940条を土台に整理します。
相続放棄しても空き家の管理義務が残るのはどんなときか
一般に「管理義務」と呼ばれますが、民法940条が定めているのは、相続放棄をした人がその財産を現に占有しているときの保存義務です。2023年4月1日の改正で、対象がこの「現に占有している人」に限られました。それまでの条文は、放棄した人全員に管理を続ける義務があるように読めるもので、遠方の相続人まで空き家の責任を負わされかねない書き方でした。
空き家でいえば、亡くなった方と同居していた、手元に鍵があり継続して出入りしている、近くに住んで実際に家の状態を見ている、といったケースが問題になりやすいです。一方で、遠方に住み、鍵も持たず、家の中にも入っていない人まで、同じ形で義務が残るとは限りません。もっとも、「自分は占有していない」と思っていても、実際の関わり方で評価が変わることがあります。迷うときは、住んでいたか、鍵を持っているか、日常的に出入りしているか、近所や管理会社との連絡窓口になっているかを確かめてください。
また、放棄をすれば次に誰が受け継ぐかは家族構成で変わります。流れがつかみにくいときは、相続放棄したら次は誰が相続人かで、放棄のあとに順番がどう移るかを確認しておくと整理しやすいです。放棄そのものには、相続人になったことを知った日から3か月の期限があります(民法915条1項)。空き家の対応と並行して、期限の日付も相続の期限チェックで押さえておいてください。
民法940条の「保存」とは、何をどこまで行うことか
保存義務は、空き家を積極的に活用したり、きれいに整備し続けたりする義務ではありません。求められる注意の程度は「自分の財産を扱うときと同じ注意」で、中心になるのは、家を今以上に傷ませないこと、周囲に危険を広げないことです。たとえば、戸締まりをする、割れた窓から雨が入らないよう応急対応をする、漏水や倒木のおそれがあれば広がらないよう手を打つ、といった行為が考えられます。
してよいこと
- 玄関や窓の施錠を確かめる
- 雨漏りや漏水など、被害が広がる前の応急対応をする
- 近隣に危険が及びそうな枝や破損部分を一時的に押さえる
- 現状が分かるように写真を残し、いつ確認したか記録する
慎重に考えたいこと
- 家財をまとめて処分する
- 自分の判断で売却や賃貸の話を進める
- 遺品の中から価値のあるものだけ持ち帰る
- 大きな改修や模様替えをする
このような行為は「保存」を超えてしまうおそれがあります。財産を自分のものとして扱ったと受け取られないよう、必要最小限にとどめる考え方が無難です。相続放棄と両立しにくい行為が気になるときは、相続放棄できなくなる単純承認とはもあわせて読んでおくと、避けたい行動がつかめます。
反対に、何もしないまま放置すると、空き家が倒壊や衛生の面で周囲に危険を及ぼす状態になり、空家等対策特別措置法にもとづいて自治体から指導や勧告を受けることがあります。相続した家をどうするかの選択肢は相続した実家を、住むか売るか空き家にするかにまとめています。
その義務は、誰に引き継ぐまで続くのか
民法940条では、現に占有している人は、次に管理を担う人へ引き渡すまで保存しなければならないとされています。次の相手は、まだ相続放棄していない相続人であることもあれば、全員が放棄したために別の手続きが必要になることもあります。
たとえば、自分が放棄しても、ほかの相続人が受け継ぐなら、その人に家の鍵や状況を引き継ぐ場面が考えられます。反対に、関係者が次々に放棄して、引き継ぎ先が見当たらないこともあります。その場合は、相続放棄を全員がした後の相続財産清算人とはで、清算人が選ばれると何が変わるかを確認してください。清算人に引き渡した時点で、保存義務は終わります。
誰に移るかの見通しが立たないまま放置すると、空き家の見回りや近隣対応だけが手元に残りやすくなります。記事の途中にある相続放棄シミュレーターを使うと、家族構成から放棄後の移り先を整理できます。引き継ぎの相手が分かれば、鍵、郵便物、設備の不具合など、何を伝えるべきかも把握できます。
空き家があるときの進め方
まず確認したいのは、自分がその家を実際に管理している立場かどうかです。同居、鍵の保管、定期的な出入りの有無を書き出すと、状況を洗い出せます。次に、雨漏り、破損、近隣への危険といった急ぎの点だけを見て、必要なら応急対応をします。その際は、いつ何をしたか、支出があれば領収書も含めて残してください。
相続放棄の手続き自体がまだなら、相続放棄の手続きと必要書類を確認で流れを先に押さえると、家の管理と並行して何を集めるか決められます。借金や未払いが気になって放棄を考えているなら、親の死後、借金の調べ方と放棄の考え方も参考になります。放棄を済ませた後に督促が届いたときの対応は相続放棄したのに債権者から請求されたらにまとめています。
空き家は、放棄したかどうかだけで整理できない場面があります。ポイントは、「自分が現に占有しているか」「保存の範囲にとどまっているか」「次の引き継ぎ先が見えているか」の三つです。判断に迷う場合は、事情を時系列でまとめたうえで、相談窓口の案内を利用して確認してください。
