相続放棄を終えたのに、金融機関やカード会社、家賃の相手先などから請求が来ると戸惑います。ですが、請求が届いたことだけで、直ちに自分が払う立場だとは決まりません。まずは、相続放棄の効力が及ぶ場面と、放棄しても残る自分自身の義務を分けて考えることが出発点です。
相続放棄後でも請求が来る理由
相続放棄をすると、被相続人(亡くなった方)の相続については、初めから相続人ではなかったものとして扱われます(民法939条)。そのため、亡くなった方の借入れや未払い金を、相続人として引き継ぐことはありません。
それでも請求が来るのは、債権者が相続放棄の事実をまだ把握していないことが多いためです。相続放棄は家庭裁判所に申述して受理される手続きで、債権者に自動で知らされる仕組みはありません。亡くなった方の契約情報には、家族の連絡先しか残っていない場合もありますし、戸籍や裁判所の書類を確認する前に、ひとまず案内や督促を発送することもあります。
もう一つ大事なのは、相続放棄をしても借金そのものがなくなるわけではないという点です。支払う人がいなくなるのではなく、次に相続人となる人へ順に問題が移ります。誰に移るかは家族構成で変わるため、相続放棄したら次は誰が相続人かで流れを確認しておくと、親族間の行き違いを減らせます。記事の途中に出る相続放棄シミュレーターでも、放棄後の移り先を整理できます。
請求を受けたときに最初に分けて考えること
亡くなった方の債務なのか
封筒の宛名、請求書の契約者名、契約番号を見て、まずは誰の債務かを確かめます。亡くなった方の名前で借入先から届いているなら、相続放棄の効力が関係する可能性があります。反対に、あなた自身の名前で契約しているものなら、相続とは別の問題として扱う必要があります。
自分の立場で支払義務が残るのか
相続放棄をしても、次のようなものは別に検討します。
- 自分が連帯保証人や保証人になっている債務
- 自分が共同で借りている債務
- 亡くなった後に、自分名義で新たに結んだ契約の代金
これらは、相続人だから払うのではなく、自分自身の契約や引受けにもとづく請求です。相続放棄では消えません。請求書の見出しだけで判断せず、契約者名と保証の有無まで確認したいところです。
また、亡くなった方に借金があるか曖昧なまま話が進んでいることもあります。心当たりのある通帳、郵便物、カード利用明細などの見方は、親の死後、借金の調べ方と放棄の考え方で整理できます。
亡くなった方の財産から払わない
請求を早く終わらせたくて、亡くなった方の口座に残っているお金や手元の現金で払ってしまうのは避けます。相続放棄をした後でも、相続財産の全部または一部を隠したり、自分のために消費したりすると、単純承認したものとみなされます(民法921条3号)。せっかく受理された放棄が無意味になるおそれがあるため、亡くなった方の財産には手を付けず、支払いの約束もしないのが基本です。自分の財産から肩代わりする義務もありません。
債権者に伝える内容と手元に置く資料
相続放棄を済ませているなら、債権者にはその事実を落ち着いて伝えます。大切なのは、感情的に争うことではなく、確認に必要な情報をそろえて話すことです。
- 亡くなった方の氏名、生年月日、住所
- 請求書や督促状の契約番号
- 相続放棄をした人の氏名と続柄
- 相続放棄申述受理通知書や受理証明書の写し
- 連絡した日時、担当者名、話した内容の記録
受理通知書は、申述が受理されたときに家庭裁判所から1通だけ届く書類で、再発行はされません。債権者が複数いて写しを何度も求められるときや、正式な証明を求められたときは、家庭裁判所に相続放棄申述受理証明書を申請して取ります。申請の方法は裁判所が案内しています。
電話だけで終わらせず、求められたときに写しを送れるよう準備しておくと、話がかみ合いやすくなります。原本は手元に保管し、送るのは通常は写しにします。まだ書類がそろっていない場合でも、その場で支払う約束をせず、「相続放棄の書類を確認してから連絡します」と伝えるほうが整理しやすいです。
手続きの流れや受理後に手元へ残る書類の確認には、相続放棄の手続きと必要書類を確認も参考になります。
請求が続くときと、次に見ておきたいこと
一度伝えても請求が続くときは、債権者側で処理が終わっていないか、相続放棄した人以外への連絡先が分からない場合があります。まずは、前回いつ誰に伝えたかを示して、再確認を依頼します。書面で案内が届いたなら、保管している控えと合わせて経過を残しておきます。
親族の中で複数人が相続放棄している場合は、次に相続人となる可能性のある人が事情を知らないまま連絡を受けることがあります。請求が届いて初めて借金を知った親族がまだ放棄していないなら、自分が相続人になったことを知った時から3か月の熟慮期間があります(民法915条1項)。相続の期限チェックで関係する期限を日付で確かめておくと、次の確認がしやすくなります。
放棄しても、放棄の時に実際に住んでいたり管理していたりした財産は、次の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで保存する義務が残ります(民法940条1項)。実家に住み続けているような場合の範囲は、相続放棄しても空き家の管理義務は残る?で整理しています。
さらに、相続人全員が放棄したときは、財産全体の整理が別の手続きに進むことがあります。空き家や預貯金、未払い金を誰が管理するのかが問題になるため、相続放棄を全員がした後の相続財産清算人とはも読んでおくと流れをつかめます。
相続放棄をしたのに請求が来た場面では、支払う前に「亡くなった方の債務か」「自分自身の契約ではないか」「相続放棄の資料を示せるか」を順に確かめることが重要です。判断に迷うときは、相談窓口をご案内しているページも併せて確認してください。
