遺産分割協議が終わったあとで、「不動産を共有にしたが持ちにくい」「預貯金の分け方を変えたい」「相続人が一人入っていなかった」と気づくことがあります。遺産分割協議のやり直しは、いつでも自由というものではありませんが、事情によっては見直せます。ここでは、やり直しが考えられる場面と、確認の順序を整理します。
遺産分割協議はやり直しできるのか
遺産分割は、相続人同士の話合いで決めるのが基本です(民法907条1項)。そのため、最初の協議が有効にまとまっていても、相続人全員があらためて内容を変えることに納得しているなら、前の協議を全員の合意で解いて分け直すことは認められています。
ただし、ここでいうやり直しには二つあります。ひとつは、前の協議に漏れや前提の誤りがあり、最初から整理し直す場合です。もうひとつは、前の協議はいったん有効でも、その後に全員で別の分け方に組み替える場合です。見た目は同じでも、必要な確認と、税金の扱いが変わります。
反対に、一人でも同意していないのに、あとから内容だけを書き換えることはできません。署名済みの協議書を破って終わりにはならず、誰が何を受け取ることになったのか、名義変更や払戻しが済んでいるかまで確かめる必要があります。
やり直しを考える主な場面
全員が合意して、分け方を変えたいとき
不動産を共有にしたものの管理しにくい、代償金の準備が難しいなど、実際に動き出してから不都合が見えることがあります。この場合は、相続人全員が新しい分け方に納得しているかが出発点です。分け方の選び直しは、現物分割・代償分割・換価分割の違いを見ながら整理すると、どの方法が今の事情に合うか比べられます。
この形のやり直しで気をつけたいのが税金です。有効に成立した協議を全員の合意で分け直した場合、国税庁の取扱いでは、新しく財産を受け取った人は相続で取得したのではなく、前に取得した相続人から贈与や譲渡を受けたものとして扱われるのが原則です。贈与税や所得税の対象になり、相続税の申告のやり直しもできません。分け直す前に、何がどの相続人からどの相続人へ動くのかを書き出し、税務の相談窓口で扱いを確かめておくことをすすめます。
協議書に漏れや書き間違いがあるとき
土地の表示、口座の名義、預貯金の支店名などが不正確だと、手続きの窓口で止まることがあります。単なる記載ミスの直しで足りるのか、内容そのものを変えるのかで対応は別です。誤記の訂正だけなら分け方は変わらないので、上の税金の問題は起きません。新しく協議書を作る前に、遺産分割協議書に書くことで項目を見直すと、書き漏れの確認に使えます。本文の組み立て方は遺産分割協議書の書き方と確認事項で整理しています。
相続人の参加漏れや前提の食い違いがあるとき
あとから戸籍を集めて、協議に入っていない相続人が見つかることもあります。相続人の一部を欠いた協議はそもそも効力がないので、全員で最初からやり直すことになります。また、特定の財産が亡くなった方のものではなかった、遺言書が後で見つかったというように、前提が変わる場面もあります。こうしたときは、最初の協議をそのまま前に進めるのではなく、誰が相続人で、何が分割の対象かを確かめ直します。ページ途中のボタンで法定相続分を確認し、家族の構成に抜けがないか見ておくと整理しやすくなります。
遺言書があとから見つかったとき
協議のあとに遺言書が見つかった場合、遺言の内容が優先するのが原則です。ただし、相続人全員と、遺言で財産を受け取る人がそろって協議の内容でよいと納得していれば、協議を活かせることもあります。遺言書が自筆なら、開ける前に家庭裁判所の検認が要ります。先に遺言書が見つかったら、開ける前にすることを確かめてください。
やり直しを進めるときの順序
見直しを始める前に、次の順で状況をそろえると話合いがぶれません。
- 前の協議書と関連資料を集める 署名した協議書、戸籍、財産の一覧、名義変更の控え、払戻し書類を手元に置きます。
- 何を直したいのかを分けて考える 誤記の訂正なのか、財産の追加なのか、配分の変更なのかを切り分けます。理由が混ざると、必要な同意の範囲と税金の扱いが見えなくなります。
- すでに動いた手続きを確認する 不動産の名義変更、預貯金の払戻し、株式の移管などが済んでいると、新しい協議書だけでは足りないことがあります。預貯金の扱いは預貯金は遺産分割の対象か、引き出しの考え方も参考になります。
- 全員の合意を文書で残す 口頭だけで進めず、誰が何を受け取るのか、前の協議とどこが変わるのかを文書にします。後で窓口ごとの説明がそろいます。
時間の面でも一つ押さえておきます。相続開始から10年を過ぎると、特別受益や寄与分を踏まえた分け方の主張ができなくなり、原則として法定相続分で分けることになります(民法904条の3)。古い相続の分け直しを考えているなら、この10年がどこにあるかを先に見ておきます。
話合いの途中で「そもそも共有のままでよいのか」が論点になることもあります。不動産を複数人の名義にすると、売却や管理のたびに足並みが必要になります。判断材料として、相続した不動産を共有するデメリットを先に読んでおくと、やり直し後の持ち方まで考えられます。
やり直しが難しくなる場面と迷ったときの見方
見直しの話がまとまりにくいのは、すでに第三者が関わっているときです。たとえば、相続人の一人が取得した不動産をさらに売っている、受け取った預貯金を前提に別の支払いが進んでいる、といった場面では、相続人同士の合意だけでは整理しきれないことがあります。
また、感情の行き違いが大きくなると、当初は「書き直せば済む話」だったのに、寄与分や特別受益、遺言書の解釈まで論点が広がることもあります。全員の合意に至らなければ、家庭裁判所に分割を求める道があります(民法907条2項)。こうなる前に、遺産分割がまとまらないときの進め方で、話合いから調停へ進む見通しを確認しておくと次の行動を決められます。
遺産分割協議のやり直しは、全員の合意があるか、前の協議にどのような問題があったかで見方が変わります。名義変更や税金の扱いまで影響が及ぶこともあるため、事情が複雑なときは相談窓口があることも押さえておくと安心です。
