「元気なうちに何かしておきたい」と考えたとき、選択肢は大きく2つあります。生前贈与で今すぐ渡すか、遺言で渡し先を決めておくか。よく比べられますが、この2つは目的が違うため、どちらが優れているという話ではありません。
役割が違う
- 生前贈与は、いま渡す方法です。渡した時点で相手のものになり、相手はすぐ使えます。渡した分だけ手元の財産は減ります。
- 遺言は、亡くなったときに誰へ渡すかを決めておく方法です。生きているあいだは自分の財産のままで、いつでも書き換えられます。
言い換えると、生前贈与は「いま必要な人がいる」ときの手段、遺言は「もめさせたくない」ときの手段です。目的が違うので、両方を使うご家庭も珍しくありません。
生前贈与が向く場面
- お子さまやお孫さんに、住宅の取得や学費など、いま必要な事情がある
- 相続税がかかりそうで、時間をかけて財産を移していける
- 事業や農地など、承継の準備に時間がかかるものがある
ただし、渡しすぎると自分の生活が立ちゆかなくなります。介護や医療の費用は事前に読めません。まず自分の分を確保してから考えてください。進め方は生前贈与の始め方にまとめています。配偶者に自宅を渡すなら、婚姻20年以上で使える贈与税の配偶者控除とおしどり贈与の条件も見ておいてください。
遺言が向く場面
- 相続人どうしの関係が良くない、または疎遠な相続人がいる
- お子さまがおらず、放っておくとご兄弟姉妹が相続人になる(民法889条)
- 不動産が中心で、そのまま分けると共有になってしまう
- 相続人以外に渡したい相手がいる(内縁の配偶者、お世話になった方など)
とくに2つめは見落とされやすい形です。お子さまがいないご夫婦の場合、何もしなければ配偶者とご兄弟姉妹が相続人になります。配偶者にすべて残したいなら、遺言が必要です。ご兄弟姉妹には遺留分がありません(民法1042条)。遺言の効果がそのまま通る形です。
遺留分を無視すると、かえってもめる
遺言で「全財産を長男に」と書いても、配偶者・お子さま・ご両親には最低限の取り分が保障されています(民法1042条)。この請求は金銭で行われるため、受け取った側が現金を用意することになります。
不動産だけを1人に相続させて、ほかのご家族の遺留分に相当する現金が無い、という形がもっとももめます。遺言を書くときは、遺留分に相当する金銭をどう用意するかまで考えておく必要があります。生命保険を使って現金を用意しておく方法が取られるのは、このためです。
割合と期限は遺留分の割合と、請求できる1年の期限にまとめています。
生前贈与も遺留分の計算に入ることがある
「贈与で渡してしまえば遺留分の対象にならない」と考える方がいますが、そうはなりません。相続人への贈与は、特別受益として遺産分割の計算に持ち戻されることがあり(民法903条)、遺留分の計算でも一定範囲の贈与が算入されます。
贈与と遺言は別々に考えるものではなく、全体としてどう分かれるかを見て組み立てるものです。
順番
迷ったときは、次の順で考えると整理しやすくなります。
- 何もしなければ誰がどれだけ受け取るかを確認する(民法900条)
- それで困ることがあるかを考える
- 困るなら、いま渡すべきか、亡くなったときに渡すべきかを決める
1つめは相続まるごと診断で確かめられます。ご家族の構成を入れると、相続人と法定相続分が条文の根拠つきで出ます。