生前贈与は、元気なうちに財産を渡しておく方法です。ただし、通帳を作って入金しておくだけでは贈与として認められないことがあります。ここでは、贈与として成立させるために何をするかを整理します。
贈与は「あげます」「もらいます」で成立する
贈与は、渡す側の「あげる」という意思と、受け取る側の「もらう」という意思が合って成立する契約です。片方だけの意思では成立しません。ここが、生前贈与でいちばん多い失敗の元になります。
よくあるのは、親が子の名義で口座を作り、毎年入金していたものの、子はその口座の存在を知らず、通帳も印鑑も親が持っていた、という形です。これは贈与ではなく、名義が子になっているだけの親の財産(名義預金)と見なされ、相続の対象として扱われます。
残しておくもの
贈与があったことを後から示せるように、次の3つを残します。
- 贈与契約書。誰が誰に、いつ、何を渡したかを書き、双方が署名・押印します。決まった様式はありません。
- 銀行振込の記録。現金の手渡しは記録が残りません。渡す側の口座から受け取る側の口座へ振り込みます。
- 受け取る側が管理している状態。通帳と印鑑、キャッシュカードは受け取った本人が持ちます。
3つめが抜けると、契約書があっても実質は渡っていないと見られます。受け取った人が自由に使える状態になっていることが、いちばん重要です。
お子さまが未成年の場合
未成年のお子さまへの贈与は、親権者が代わりに受諾することで成立します。この場合も、口座の管理を親が行うこと自体は問題ありませんが、贈与契約書は作っておき、成人したら本人へ引き継ぐ形にしておくと、後の説明がしやすくなります。
いくらまでなら税金がかからないか
贈与税には基礎控除があり、受け取る人1人あたり年間110万円までは課税されません(租税特別措置法70条の2の4)。これを超えた分に贈与税がかかります。
注意したいのは、この110万円は「受け取る側1人あたり」で数えることです。父からも母からも受け取れば、それぞれの額を合計したところで判定するため、片方ずつでは枠に収まっていても超えることがあります。
また、この暦年課税とは別に、相続時精算課税という制度もあります。どちらを使うかで扱いが大きく変わるため、始める前に暦年課税と相続時精算課税を確認してください。
相続のときに加算されることがある
亡くなる前の一定期間に相続人へ贈与された財産は、相続税の計算のときに加算されます(相続税法19条)。この期間は改正により段階的に延長されています。
つまり、亡くなる直前に慌てて贈与しても、相続税の対策としては効きません。効果を出すには、早い時期から少しずつ進める必要があります。始める時期そのものが結果を左右する部分です。相続のときに現金を残すことが目的なら、贈与とは別に生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人の数)を使う方法もあります。
渡しすぎないこと
生前贈与で気をつけたいのは、渡す側の生活費が足りなくなることです。介護や医療に何がいくらかかるかは事前に読めません。まず自分の分を確保し、残りの範囲で考えてください。
また、特定のお子さまにだけ多く渡すと、相続のときに特別受益として扱われ、分け方の話し合いでもめる原因になります(民法903条)。誰にいくら渡したかを記録として残しておくと、後の説明がしやすくなります。